AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED

高コストパフォーマンスの傑作ナノクリレンズ

長所
・どの絞り値、ピント位置でも安定した高解像で卓越した汎用性
・色乗りが良い
・等倍マクロ可能で被写体のすぐ目の前まで寄れる
・マクロレンズながらインナーフォーカスで全長不変
・AFは非常に速い
・性能の割に非常に廉価

短所
・周辺減光が強烈
・中遠景は二線ボケになりやすい
・汎用性が高い分純粋なマクロ撮影能力は他の名マクロレンズに劣る
・野外での等倍撮影は困難
・ブリージングあり
・フォーカスリミッターなし
・フィルター径が中途半端

その他
・前玉、後玉ともに完全固定
・機械絞り
・円形フードはあまり格好良くない
・実は弟分AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8Gに部分的に負けている

個人的満足
・スリムで流線形のレンズデザインが格好良い
・マイクロ105のフードを流用可能


自身初のナノクリスタルコート仕様かつFXフォーマットレンズ。かなり昔に購入したもので、当時は懐事情から新品には手が出せず、状態の良い中古品を入手した(それならとついでに2011年のタイ洪水の影響で一時的に国内回帰した製造品を選んだ)。
購入当初はまだDXフォーマットのD7000しか所持しておらず、FXで使用し始めたのはD810を購入して以降。2019年現在までノーメンテナンスだが動作には一切不具合なし。

ニコンにはマクロレンズを「マイクロレンズ」と呼称する独自の伝統があり、それ故にマイクロと名の付くレンズの設計製造には特段の力を注ぐらしい。その恩恵…かどうかは知らないが、このレンズは安くても実売10万円台後半の純正高級レンズ群にも引けを取らない、極めて高い性能を誇る(さらに言うと、元々フルサイズ一眼レフ用レンズは55mm~85mm付近の焦点距離は構造上設計に無理が生じにくく、全体的にコスパに優れた銘玉が多いようだ)。
どうでもいいことだが、個人的には「マイクロ」の方が語感が良くて好きだ。

プラ外筒で重量も割と軽めだが、造りはしっかりしており、5814Gのような安っぽさは感じさせない。何より僅かにくぼむようにカーブした独特の鏡筒ラインとナノクリのNバッジが格好良い。Fマウントニッコールにおけるそのレンズジャンルで最高クラスであることを示す金環がないのが少々残念だが、これは兄貴分でよりマクロ撮影に特化したマイクロ105mmがいるからだろう。
前玉、後玉共に完全固定で、ピント動作による隙間は一切生じないため、密閉性が高く塵芥にはかなり強い部類。純正に限らずF1.4のレンズはインナーフォーカスとは似て非なるリアフォーカス式(最後端のレンズが動く)採用型が多く、レンズ交換の際は必ずピント位置を無限遠にするよう気を付けているが、その必要がなく気楽。
前玉はかなり小さいので、汚れてもメンテナンスは楽なはず。最近当たり前になりつつあるフッ素防汚コートがないのは気になるが…

付属のフードは恐ろしく無粋。なので、フィルター径が同じマイクロ105mmのフードオプションHB-38を別途個別購入して流用している。これを取り付けると一気に嵩張ってしまうが、まるで大三元レンズであるかのような威厳を醸し出すので、満足感は高い(等倍まで寄るのは不可能になるが、ケラレは発生しない)。
ここで厄介になるのが、62mmというこれまた中途半端なフィルター径。あと5mm太ければ流用しやすいのに…5814Gといい、なぜ定番のサイズから絶妙に外してくるのか疑問でしょうがない。ステップアップリングを噛ませて流用する手もあるが、そうするとフードが付けられなくなってしまう。まあ、HB-38を取り付けてしまうとC-PLフィルター操作は不可能になってしまうし、そもそもC-PLフィルターなしでも色が鮮やかなレンズなので個人的に困ったことはあまりなかったりするのだが。
ちなみに、このレンズにC-PLフィルターを付けて効果を最大にする条件が揃うと、驚くほどコントラストが高まる。青空が凍えそうなぐらいに極限まで澄み切り、不自然ながらこれはこれで面白かったりする。




一番の特徴はやはり、どんな状況でも(極端な)破綻を来たさない抜群の安定した描写力。癖らしい癖は周辺減光を除けばほぼ見受けられず、遠景から接写まで幅広く使える、まさに万能標準レンズ。
解像力は開放F2.8から一貫して周辺まで高い水準を維持しており、他のニコンレンズ金環ハイエンド群と同等以上で、D850の画素ピッチにも対応可能であり素晴らしい安心感。解像に限れば絞り値を気にする必要がない。
大口径レンズに比べると開放F値は暗いが、その代わりに大きく被写体に寄れるためイーブン。むしろフルサイズならF2.8は十分明るい部類か(APS-Cだと受光面積が半減して1段下のF4相当となるため厳しい)。
加えて、淡い描写が多いニコンレンズにしては珍しく色乗りが良い。ボディ側が同じ設定でも他のレンズよりも発色が強烈なのが一目瞭然。下手をすればC-PLフィルターがいらないとさえ思えてくるほど。色鮮やかな演出は5814Gとは違った方向性での愉しさを提供してくれる。おそらく、この発色によるコントラストが実用上の解像感を底上げしている面もあるのだろう(単純な解像力数値だけならこのレンズを余裕で凌駕するレンズは最早珍しくないのだし)。

画角的にも標準と中望遠の中間に位置しており、狭すぎず広すぎずこれが田舎でのスナップにはうってつけ。気になった被写体があっても他人の敷地内(主に畑や田んぼ)だったりして十分に寄れない場合も多く、標準より短い広角レンズは持て余し気味になってしまう故…
一方、都会でのスナップにはちょっと狭い。短時間で構図や被写体の取捨選択計算ができないとストレスが溜まる一方で撮る気が失せてしまう。その辺は慣れが必要だ。



AFは巷の評判通りの静音爆速。強力な超音波モーターを搭載しており、これは24~200mmをカバーする最高級ズームレンズ群、所謂「大三元レンズ」と同等らしい。購入して初めてAFを作動させた際、「スコー」という微かな音と共に一瞬でピント面が移動完了したのを目にした際は強烈な感動を覚えたものだ。ありふれたDXフォーマットズームレンズとは最早次元が違う。
もっとも、このレンズの画角でこの爆速AFが生かせるシーンは殆どなかったりするのだが…また、マクロレンズながらフォーカスリミッターが付いていないのが引っ掛かる。AF駆動自体は早いが、ピント全体の駆動距離が長いので結果的には高級爆速AFレンズには劣るだろう。もしかすると、SWMを共用化してフォーカスリミッターを非搭載とすることでコストダウンを図ったのかもしれない。



ボケ味は、マクロ領域近辺もしくはメイン被写体と背景に十分な距離がある場合では基本的に美しいと言えるレベル。しかし、これがピント距離が離れるにつれて線が多い部分はボケ量が減って如実に荒れて見苦しくなってしまう(※それでも廉価なズームレンズよりは格段にまともであることに留意)。なので、茂みや木の枝が多い自然公園等への持ち出しはちょっと躊躇う。この点は流石に二倍以上の値段のf/1.4レンズには及ばない。
被写体に大きく寄り込めばF1.4クラスと同等以上にボケ量を増やすことが可能だが、画角がやや狭めなので背景が映る余地が少なく、やはり不利であることには変わりない。



安定解像の傍ら、前玉が小さいために周辺減光はかなり強烈なのが明確な欠点。開放付近だとヴィネットコントロールも追いつかないほど周辺が暗く落ち込んでしまう。ほどほどの減光は演出としては好まれるが、このレンズのそれは許容範囲外(後処理で暗くする分には無害だが、明るくするとノイズが増えてしまう)。補正前提なら最低F5.6、完全解消にはF8以上に絞り込む(もしくは撮影距離を詰めて実効F値を上昇させる)必要がある。ただ、前述の通り背景をぼかすのはやや苦手なレンズなので絞り込んでしまうことも多く、使い方次第では意外と気にならないかもしれないが。



分類上ではマクロレンズではあるものの、等倍撮影のためにはレンズ先端数㎝まで被写体に寄る必要があり、これが侵入禁止区域や対象が昆虫である等、ワーキングディスタンス短縮が限られる状況ではかなり使いづらくなる。同様に光源の位置によっては自身の影が入らないようにする必要もあり、正直マクロレンズとしてはかなりの難点。ただし、自身で環境をセッティング可能な屋内物撮り、テーブルフォト、フィギュアレビュー等に関してはこの限りでない。むしろ画角が広い分狭いところでは中望遠マクロより使いやすいはず。
受光面積が減る分シャッター速度をより長くする必要があるものの、DX機を使うかクロップしてしまえば疑似中望遠マクロとしても運用可能。このレンズの解像度なら現状主流のAPS-C2400万画素の画素ピッチにも対応可能であるし、被写界深度を稼げる分FXで使うより有利、マクロ志向なら高画素DX機の方が向いているとも言える(ファインダー倍率の小ささだけはどうにもならないが…Z7か今後登場が予想されるDXフォーマットZならより運用しやすくなるはず)。
FXで使うならマクロはおまけ程度に考えておいた方が無難。兄貴分のAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDの方が適任だろう。


※引用元:OpticalLimits
Micro-Nikkor AF-S 60mm f/2.8 G ED (DX) - Review / Lab Test Report - Analysis
Micro Nikkor AF-S DX 40mm f/2.8 G - Review / Test Report - Analysis

実は、兎にも角にも解像を要求されるマクロレンズでありながら、軸上色収差が大きい部類。私も一度何気なくD7000に付けて輝度差の激しいものをマクロ距離で開放撮影した際、低画素の背面モニタですらはっきり分かるほど大きな色ずれに驚かされた記憶がある。この点、弟分であるDX専用マイクロ40mmではこのような経験は一度もなく、有名どころの定量的テストでもそれが裏付けられている。
古いマクロレンズには過剰な収差補正で二線ボケが酷いものが多々あるらしい。そもそもマクロ機能と綺麗なボケ味は設計志向が相反している。おそらくボケ味もできる限り良好にするため、電子処理である程度補正可能な色収差はあえて残存させる設計にしたのだろう。

また、本来ならマクロレンズは撮影距離が短くなるにつれてレンズ群全体が前進するのだが、このレンズはインナーフォーカスによってマクロ機能を実現させている。高い防塵防滴性、前玉を不用意に被写体にぶつける恐れが低い、と、使い勝手には相当貢献しているが、その副作用で、解像力数値は設計に無理のない全群繰り出式を採用している他社の最新ハイエンドマクロレンズ(ツァイスMilvus2/100Mやシグマ70mmArt等)に後れを取っており、ブリージングによる画角変動(深度合成には大いに問題)というマクロ撮影にはかなり厄介な問題も抱えてしまっている。
残存色収差と共々、結果的に汎用性は格段に高いレベルでまとまっているが、その分マクロ性能は犠牲になってしまっている。本格的なマクロ撮影を志すなら、このレンズより他の選択肢を検討した方が良いだろう。もっとも、他所は他所で色々と厄介な制約があるのでこれぞと言い切れるものはなく難しいのだが…

総評。あらゆる方面で高い性能バランスを実現しており、この完成度で実売10万円を大きく切っているのは間違いなくバーゲンプライス。巷で絶賛されているのも十分頷ける(もっとも、最近はまでに相当値上がりが進んでしまったようだが…私が購入に踏み切った時は運が良ければ新品が6万円を僅かに切る程度の価格水準だった)。現状安ズームしか持っておらず、何か一本画質に拘ったレンズが欲しいというような人には、真っ先にこれをお勧めする。きっと新しい世界が見えてくるはず(そしてさらに写りに拘りだして底なしレンズ沼へ…)。
さすがに発売から10年ほど経って既に設計が古く、目覚ましいレンズ設計製造技術の向上の流れの中では器用貧乏化しつつある感じは否めない。それでも、仮にこのレンズの後継が出るとしても、確実に性能と共に価格も恐ろしく跳ね上がるだろうし、そもそもFマウントの方で出るのかどうかも怪しい。なので、現在でも保有する価値は十二分にあると思う。

ただし、FX機を持っていないDXユーザーに関しては、特に考えもなしに評判に流されて安易に手を出すのはあまりお勧めしない。35mm換算90mm相当の中望遠画角は、あらかじめ画角のイメージをしっかり頭に叩き込んだ上で、どのような被写体を撮るかという取捨選択の基準がはっきりしていないと確実に持て余してしまう(実際私自身がそうだった)。DXのみで汎用性を求めるなら間違いなくDX専用Micro40mmの方がお勧めだ。

公式ページ
AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED の再レビュー - マクロ☆スタイル
Nikon AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED - Asahiwa.jp
AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED - nikon memo
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