SIGMA 40mm F1.4 DG HSM | Art(ニコンFマウント)

究極の準広角/標準レンズ

長所
・開放から驚異的な解像力と均一な像面
・超低収差
・綺麗なボケ味
・実質歪曲なし
短所
大三元と同等クラスの破格の重量
・この焦点距離としてはかなり長大
・フォーカスリング回転方向がニッコール純正とは反対
・年輪はないが玉ボケ縁に筋が出る
その他
・各種収差とは無縁のため味気はない
・フォーカスシフトあり
・リアフォーカス式
・フードはロックボタン、滑り止めラバー付き
・フィルター径82mm


フルサイズの35mmという焦点距離は、目に映った視界を脚色なく素直に写真という媒体に落とし込むことができる、最も画角と遠近感が両立する優れた焦点距離であり、個人的には最低これさえあれば良いという万能焦点距離だと思っている程好きだ。標準焦点距離とされる50mmと並んで超定番となっており、純正サード問わず新たな製品ラインが発売される際は必ずと言っていいほど真っ先にラインナップされる。
…だが実は私はフルサイズ用35mmレンズを一本たりとも持っていない。APS-CのDX機しか所有していなかった頃に奮発して購入したAF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED(フルサイズ換算36mmF2相当)が比類ない描写をしていたため、D810、D850とFX機を立て続けに揃えながらも、生半可な代物は嫌だと中々35mmには手が出せないでいた(純正の3514Gは各所のレビューを見る限り中途半端でどうも気に入らなかった、ライバルのキヤノンがBR素材を使った次世代35mmF1.4をリリースした後だっただけに尚更)。

そんな矛盾を抱えながらカメラ運用を続けていた中で、突如発表されたのがこのシグマ40mmF1.4Artである。
開放F1.4の大口径、スチルレンズより格段に厳しい光学仕様を要求されるシネレンズをベースとした設計と、この上なく理想に近い仕様だったのだ。35mmよりは若干長いが僅かに標準レンズ寄りになったものと思えば問題なし、105mmArtより前のArtラインとは一線を画す高度な防塵防滴構造、防汚コーティングとくればもう居ても立っても居られず、それまではサードパーティ製らしい脇の甘さが拭えず手を出せないでいたシグマレンズだったが、即座に予約購入に踏み切った(ニコンがミラーレスZを発売した以上、もう広角寄りのFマウントレンズの更新はないと判断したのも一因)。
結果として、大満足の一本となった。




初めて屋外に持ち出して驚かされたのが、異次元の解像力と画面全域に渡る均一性。開放から中央周辺ともありふれたF1.4レンズとは別次元の切れ味を発揮する。ピーク性能では105Artに一歩譲る印象だが、代わりに均一性・安定性ではこちらの方が優れている感じだ(※重箱の隅レベルの差だが)。解像度だけなら実質絞り値を選ばない。
ボケ味も高解像度レンズとしては十分すぎるほど美しい。ただ残存球面収差はArt105より抑え気味のため、やや劣る印象。十分に寄って大きくぼかせば差は縮まる。

残念なことに私が買った個体は後ピン傾向で、球面収差残存設計によるフォーカスシフト傾向もあってかピント合わせにはかなり苦戦させられた。D850ではまだ良かったが、経年劣化が進んだD500(純正レンズでも少々ピントが怪しい)だと打率はさらに落ち、開放最短撮影距離付近だともうAFが完全に使い物にならなかった。
焦点距離が短くファインダー倍率が小さくなる分ピントの山もArt105に比べると結構見にくいのが難点。少し離れたものを開放で背景をぼかして写そうとすると下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる状態。
また、フォーカスリング回転方向が純正とは逆で、キヤノン方式に準拠しているのも地味に厄介。MFで調整しようとすると反対方向に回してしまうことが少なくない。まあ、この点は頑なに反時計回りに拘泥し続けるニコンの悪癖のせいでもあるのだが…(余談だが、折角のミラーレス仕切り直しでなぜZマウントを右回りにしなかったのかが理解不能。ややこしい露出補正ダイヤルの回転方向といい、つくづくニコンは回転ギミックでコケている感)
リングのトルクは良好、幅広で操作感自体はかなり良い方だ。カタつきもなくむしろ純正よりしっかりしている。

初めて使ったシグマレンズだが、巷で言われている通り青みが強い印象だ。ニコン純正に比べると何だか重い感じの画になり、有機物より無機物相手の方が向いていると思う。
なお、他にサードパーティ製レンズではタムロンのSP70-200mmF2.8(A009)を持っているが、そちらの発色傾向は純正と似た感じで、あまり意識することなく使用することができた。



D850に取り付けて最初に撮ったフランちゃんウフフ。開放最短で何気なく撮ったのだが、この軸上色収差のなさには解像力共々驚愕した。純正f/1.4Gならこんな金属光沢が入ろうものなら間違いなくパープルフリンジまみれで汚らしくなる。目に付きやすい収差は開放から極限まで抑え込まれているため、被写体の性質を選ばないのが強み。
ただ、その分レンズ独特の「味」には欠けるため、これは好き嫌いが分かれるだろう。被写体に寄っては普通に写り過ぎて却ってつまらなくなる感じもする。

基本的描写力に関しては最早ケチのつけようがない。画角も35mm同様パッと見た景色をそのまま切り取ることができ、ワーキングディスタンスの調整が少なくて済む準広角特有の気軽さは健在(遠近感による誇張は当然ながら35mmよりやや少なくなっている)。解像力も凄まじいのでクロップやトリミングを厭わなければ標準~中望遠としての運用も十分可能だ。

だがその一方で、1200gという途轍もない重量がネック。Art105同様特殊硝材と補正レンズを極限まで詰め込んでいるが故。比較的短め焦点距離の単焦点レンズながら大三元ズームレンズと同じクラスの重量と言えばその凄まじさが分かるはず(ちなみにニコンだと1424Gが970g、2470Eが1070g、70200Eが1430gとなっている)。だがこういうおバカな仕様(※良い意味で)をやらかしてくれるのがシグマ最大の長所だと思う。
この重量はグリップを握る右手よりむしろホールドする左腕を殺しにかかってくる。初日は半日運用して左手首と肘が痛くなってしまった。普段使わない筋肉に思い切り負荷がかかることを否応なく実感させられた。慣れてくれば割と気にならなくなるが、それでも一日ぶっ通しでの運用には厳しいものがある。決して気軽に扱えるレンズではない(この画角特有の長所とは思いっきり反目しているが…)。
長さもあって結構嵩張るため、小さめのホルスターバッグだと収まりきらない。なのでそれまで望遠用に使っていた大きい方のホルスターに収納することになり、二台持ちが少々面倒なことになってしまった。



大口径らしく開放付近では周辺減光が大きい。しかし前玉が大きめの分絞った際の解消は早め。
フィルター径が大きいのでC-PLフィルターの調達に難があるが、規格外のArt105mmに比べれば遥かにまし。最近は性能重視で82mmのレンズも増えてきているので、77mmほどではないが流用もしやすいはず。




玉ボケ。非球面レンズ特有の渦巻や年輪は見られないものの、縁にうっすら太めの一本筋が見られる(LensTipのテストでも同じ結果になっている、どうやら玉ボケに関しては後ボケが硬くなるようだ)。本格的なイルミネーションだと少々気になるかもしれない。
焦点距離は短めで絶対口径は小さめだがやはりミラーボックスケラレは起こる。

フォーカス機構はこの手の大口径でお馴染みのリアフォーカス式のため、案の定ピントが近接するにつれて後玉が引っ込む。このため、レンズ交換の際は気を遣う。
レンズフードはArtライン初のロック機構付きバヨネットに、滑り止めラバー付き。正直ロックよりC-PL用操作窓を設けてくれた方が良かったのだが…そしてラバーはそこかしこで指摘されている通り、細かなゴミが絡みやすく見栄え的にあまりよろしくないし、そもそも滑り止めの必要性を感じない。

総評。
解像とボケを極めて高い水準で両立させた、超高画素にも余裕で対応可能の新世代の超優等生レンズ。準広角が好きな人には自信をもってお勧めできる一本。既存のArtラインに比べると結構高額になってしまったが、それでもこの性能であれば十分バーゲンプライスの範疇。
長年待ち望んだフルサイズ用超高性能準広角レンズがようやく手に入り、喜びも一入。欲を言えば、これが純正で出て欲しかったところだが…まあそうなれば価格は間違いなく倍近くなるので、それはそれで悩ましくなるんですがね…

ところで、ついにシグマもミラーレス専用のArtレンズ投入に乗り出し、先頃35mm F1.2 DG DN Artを発表した。このレンズとの性能差がどれほどのものか気になって仕方がない…


公式ページ
シグマ 40mm F1.4 DG HSM | Art 交換レンズデータベース - とるなら~写真道楽道中記~
40mm F1.4 DG HSM | Art - 五海里

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