AF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED

究極の広角ボケレンズ

長所
・広角レンズとしては反則級の超ボケ描写
・絞れば安定する解像度
・フィルター汎用性の高い77mm径
短所
・5000万画素超時代には最早解像力不足気味
・そこそこ重いので初中級機とのバランスは最悪
・ゴーストが出やすく逆光ではハレ切り必須
その他
・個人的にはFXよりDXの方が使いやすい
・フォーカスリングかカタつく(仕様?)
・これの35mm版が出ていれば…


マイクロ60に続いて購入した自身二本目のナノクリレンズ。価格は数あるナノクリニッコールでも屈指の好評価を得ているAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED(いまだにEタイプリニューアルされていない程の高性能)と同額で、私が購入してきたレンズの中で一番高額だ。購入当時はそれこそ清水の舞台から飛び降りる気持ちだったが、結果的には十分出費に見合った仕事をしてくれたと思っている。
当時はまだDXのD7000しか所有しておらず、FX機を同時購入する余裕はなかったため、大口径の準広角画角を得ようとすると実質このレンズしか選択肢がなかった(まだシグマArt24mmや2418Gが発売されていなかった)。

特筆すべきはそのボケ描写力。一般的にボケ味が雑になりやすい焦点距離の短いレンズでありながら、なんと下手な中望遠レンズを余裕で打ち負かすレベルのボケ味を誇る。全ての描写要素がボケ描写向上に注がれているような感じで、レンズレビューで定番となっている「ボケ味が美しい」というワードを超越した、言葉では明瞭に表現できない絶妙な繊細さを具有している。
一部では「ニッコールf/1.4シリーズのラスボス」とまで言われるらしい(ペンタックスでいうところのFA31のような存在か)。ただ各所を回ってみると手放してしまったという話も散見されるので、好き嫌いは結構別れる模様。だが私はこのレンズだけは絶対手放したくないと思えるほど気に入っている。



DX機に装着するとフルサイズ換算36mmF2に相当する。中央付近は開放から解像力が高い(※近接のみ)上に、開放では解像が弱く光量落ちする周辺を切り捨てるため使い勝手はすこぶる良い。その場で見えた光景を余計な脚色なくそのままにこの上なく美しく切り取ってくれる最高のスナップレンズだ。もちろんアングルやワーキングディスタンス調整による追い込みは掛けられるし、きちんとした「作品」も狙える。遠くのものを引き寄せる以外のことは何だってできる万能レンズと言っても過言ではないと思う。

ピント面までボケて背景と一体化する5814Gとは異なり、こちらはピント面がはっきり浮き上がる。C-PLフィルターを噛ませてコントラストを上げてやると強烈に感動的な画を吐き出す。この描写に魅了されたが最後、あらゆるものをどんどん撮りまくって止め時を見失ってしまうこと請け合い。お陰で折角遠出した際の行動計画が狂ってしまったこと数知れず…
ただ一方で、極上のボケ味のために球面収差、軸上色収差はかなり大きめ。色収差低減用にEDレンズが組み込まれているが、あくまで調整程度の存在だろう。素の解像力は高いが、開放付近で中遠景を撮ると残存収差に飲み込まれてボヤボヤになってしまう。この点、どんな状況でも開放からバシバシ容赦なく解像するシグマArt等最新設計のレンズと比較するとどうしても見劣りしてしまう。ポスト8Kでセンサー画素ピッチの更なる狭小化が進行している現在では、解像力に関して最早力不足になっている印象は決して否定できない。

レンズ重量620gと、最近の超弩級大口径レンズと比べるとかなり軽いが、DXの軽量ボディと組み合わせると重心が前方にくるためバランスは決してよろしくない。D7000メイン時代はこのせいでボディを握る右手が半日運用程度で何度も死にそうになった(D7000がグリップ性の悪さに定評があったこともあり…)。
これがD500に移行してからは全く問題なく快適に運用できるようになった。ボディ側にも格を要求するなんとも罪作りなレンズである。

フィルター径は77mmと大口径では最もありふれた部類なので流用しやすいのが嬉しい。焦点距離が短めでフードも浅めなのでC-PLフィルターの操作も容易。
ただ、前玉が出っ張った形なので、逆光で斜めからの強烈な日差しが入ると確実に三色ゴーストが発生する。加えてフードが浅いために左手でのハレ切り動作が必須となり、右手だけでカメラを構えることになってしまう。逆光できちんと構図を作ろうとすると三脚か一脚による補助が必須だ。その一方で、フレアはほぼ皆無でコントラスト低下はごく軽微。ナノクリスタルコートは非常に優秀である。

AF速度は大口径のため割と遅め。実は絶対口径値が大きいシグマArt105の方がよっぽど速かったりする。まあ焦点距離的にAF速度はさほど重要ではないのだが。
被写界深度の浅さに加え、球面収差によるフォーカスシフトもあり、さらに焦点距離の短さによるファインダー倍率の低さもあるのでピント合わせは結構シビア。AFモジュールが優秀なD810以降だとかなり改善されたが、D7000時代はそれこそピント精度が悲惨極まりなかったという。



D810を購入して初めて本来の画角で使用した。より強烈なパースが付く分、開放の明るさと相俟ってさらに凄まじい描写力を発揮するようになった。
ただ、このFX24mmという画角が結構曲者。換算35mm相当で気軽にシャッターを切るだけでそれなり以上に官能的な画が出てくるDX画角と違い、その都度きちんとワーキングディスタンスと構図を調整してやらないと凡庸以下の写りになってしまい、これが相当に面倒くさい。メインとなる被写体に極端に寄るか、極端に引くかという一手間を常に迫られる上、余計なものが映りこまないようにする取捨選択計算に加えて、鉛直方向へのパース影響(建物が斜めに写ってしまう)も考慮してカメラ本体の水平維持にも気を使わなければならないし、あれこれ試行錯誤している間に写欲が薄れてしまうことも少なくない。
単焦点であり、ズームのように簡単に画角を調整できないのも痛恨。観光地のように自由な移動を制限されてしまうシチュエーションなら尚更。そして何よりそのような景勝地だと大概被写界深度稼ぎのため目一杯絞り込むのでF1.4の明るさはそもそも不要という…

そして、個人的には24mmという画角は中途半端に思える。28mm~35mmのような自然さはない一方で、20mm以下のような極端なパースやデフォルメによる大胆さも欠いているため、ごまかしが効かず、スイートスポットは非常に狭いと感じられてならないのだ。花畑で思いの外群生密度が低いような肩透かし状況だととりわけそのことを痛感させられる…
ただし、きちんとハマりさえすれば極上の描写になることは間違いない。そのような状況は自身の腕前に加え、特別な状況に居合わせられる努力と行動力経済力運の良し悪しその他云々かんぬんも欠かせないのだが…

総評。素晴らしいレンズなのは間違いないが、最早古さは否めない。
ボケ描写は極上だが、残酷にもボディ側が要求する解像性能が天井知らずに跳ね上がっていく流れの中で置き去りにされてしまった感じだ。後発の金環広角レンズAF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDが「解像度>ボケ描写」となったこともあり、5814G→10514Eの路線変更もあって、ニコンも最早f/1.4Gで当たり前だったボケ描写至上主義を捨ててしまったものと思われる。
最近ではソニーがFE 24mm F1.4 GMという、広角設計に有利なミラーレスならではの超弩級モンスターレンズをリリースしてきたこともあり、これからは広角レンズに関しては確実にミラーレスカメラが圧倒的優位に立っていくはず。先頃35mmF1.2をリリースしたシグマに続き、ニコンも間違いなくZマウントでこれより明るくて抜群に解像する広角単焦点レンズを出してくるだろう。そのような流れの中で、今このレンズを選ぶ理由は乏しいと言わざるを得ない。画面中央付近でしかAFが効かない一眼レフと違い、全域でAF可能なミラーレスに死角はないのだし(像面湾曲の宿命から逃れられない広角なら尚更である)。

だが、私はこの唯一無二の描写を捨てる気にはならない。何より一番楽しかったカメラライフ時代を築いてくれた最高の思い出のレンズだ。このレンズを手放すぐらいならFマウントシステム全部捨てても良いと言い切れるぐらい。決して安い買い物ではなかったが、一番良い時期に入手することができたと個人的には思っている。   



DX機だとミラーボックスが小さい分玉ボケケラレも起きやすい。なのでFX機でDXクロップした方が有利なのだが、折角のフルサイズセンサー全域を使わないともったいないという強迫観念が邪魔をする悩ましさ…

私がこのレンズの購入に踏み切る上で最後に背中を押してくださった個人HP(現在は残念ながら閉鎖されてしまっている)では、「(FXで)開放では玉ボケが全域で真円となる」とあったので何気なく試してみたが、残念ながらそうはならなかった(ただし口径食自体はかなり小さめ)。どうやらワーキングディスタンス等の諸条件がきちんと揃わないと無理なようだ。

私が現状保有するレンズの中では古参の部類だが、いつの間にかフォーカスリングにカタつきが発生し、リングをずらすと鏡筒内側の金属部分がごく僅かに覗く状態になってしまっていた(ただ詳しく観察してきたわけではないので最初からこうだった可能性もある)。
防塵防滴性の観点から問題ありと判断してセンサークリーニングしてもらうついでにサービスセンターに持ち込んだが、仕様としてそのまま返された。まあ私の場合故障しかねないような極端な悪条件下で使うことはまずないので実害はないのだけれども。オーバーホール調整してもらうにも費用はバカにならないのだし…

公式ページ
Nikon Nikkor AF-S 24 mm f/1.4G ED - LensTip.com
Nikkor AF-S 24mm f/1.4 G ED (FX) - Review / Test Report - OpticalLimits!
AF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED - nikon memo

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